ささやかな終末

小説がすきです。

影響を受けた100作

好きな小説を100冊選ぶという企画は、長年何度もチャレンジしながらも最後まで選びきれずに失敗し続けていた心残りである。しかし今回、「好き」だけではなく「影響を受けた作品」との条件を追加し、100冊ではなく100作、小説だけではなく映像作品等も込みにすることで、めでたく完成させることができた。1作1作コメントを書いていきたいところなのだが、影響を受けているだけあって思い入れの強い作品ばかりが並び、コメントが非常に長くなってしまいそうなので、まずは作品タイトルのみで記事を公開する。「出会った順」で番号を付けた。なお、コメントの追加時期は未定である。

 

追記1:コメントは順調に追加できており、順調すぎるあまり後半に行くにつれ長くなる一方であるため、読むときは注意が必要であると思われる。「紹介」と「思い出語り」がメインであり、重要な展開等のネタバレはしていない。

 

追記2:予想以上に多くの方々に閲覧していただいている記事なので、遅ればせながら書き始めたきっかけを記しておく。この「影響を受けた100作」という企画は、とあるサークルの企画に、関係者ではないが自分もやってみたかったので勝手に便乗したものである。私はその企画を「影響を受けた100作を選ぶもの」と解釈して選んでみたけれど、「自分を構成する」とか「とにかく好き!」とか、そういう意味合いも含んでいる、らしい。何か迷惑をかけてはいけないのでサークル名を出したり記事を引用したりすることは控えるが、そういう経緯であったとだけ、忘れないようにここに書いておく。様々な方々の100作もぜひ見てみたいと思っている。

 

1.アンドリュー・クレメンツ『ナタリーはひみつの作家』(小説/2003)
6年生の女の子・ナタリーが自作小説を出版社に投稿し、担当編集者である母親に自分とはバレないようにして出版を目指す物語。「作家」という職業や出版の仕組みを知った。

 

2.アン・ブラッシェアーズ『トラベリング・パンツ』(小説/2002~2007)
夏場だけ離れ離れになる4人の幼馴染の少女たちが、体形の違う4人全員が履きこなすことのできる1本の魔法のジーンズを送り合って、別々の場所で刺激的なひと夏を過ごす様子を描いた青春小説。「ほんとうにそのひとを忘れるということは、忘れようとさえ意識しなくなること」という意味の文章にずっと影響を受け続けている。

 

3.ユ・ミンジュ『永遠の片想い』(ノベライズ/2004)
25歳のジファンが5年前出会った2人の女の子、元気なギョンヒと清楚なスイン。親友同士の彼女たちはある日突然目の前から姿を消してしまった。彼女たちはなぜ消えたのか、今どこにいるのか? 韓国映画のノベライズ本。映画版も好きだが、ノベライズには映画でカットされたシーンが複数入っているので、映画を見ても物足りなく感じてしまう悲しさがある。決定的なことを口にしてしまえば壊れてしまう3人の関係が繊細に描かれているお話で、「言わずにいること」の美しさや大切さ、切なさを知った。原題は『恋愛小説』。

 

4.KBS『夏の香り』(韓国ドラマ/2003)
生まれつき心臓が弱かったヘウォンは数年前に心臓移植手術を受け今は元気にフローリストとして働いている。花の写真を撮りに行った山で足を挫いて動けなくなってしまった彼女は通りがかりの男性・ミヌに助けてもらうが……。『冬のソナタ』と同じ監督の作品。「亡くなってしまった最愛のひとを忘れられるのか」と「愛し合っているのに擦れ違う2人」という今でもこだわり続けている2テーマに出会った伝説の作品。

 

5.金子茂樹プロポーズ大作戦』(ドラマ/2007)
ずっと好きだった幼馴染・礼は今日、自分以外の男と結婚する。失意のまま結婚式に参列する健の前に時を戻せる妖精(おっさん)が現れて……? 人を好きになる瑞々しい感情と、健たち5人のチーム感の心地よさを知った1作。たった「好き」の2文字でも、どうしても言えないことはあるんだなぁと……。最終話では号泣した。51『SUMMER NUDE』に続く。

 

6.伊藤たかみ『ぎぶそん』(小説/2005)
ガンズ・アンド・ローゼズにハマった中学2年生のガクは同級生のマロ、リリイ、カケルの4人でバンドを結成し、文化祭での披露を目指す。ライブは成功するのか、そしてガクとリリイの恋の行方は!? 昭和から平成への移り変わりを描いた1作でもある。私はリリイがとても好きで、彼女が最後にみんなの幸せを願う場面に心打たれた。To be,to be,ten made to be.のところ。

 

7.あさのあつこ『ガールズ・ブルー』(小説/2003~2008)
地域有数の底辺校に通う高校2年生の理穂たちのひと夏を描いた青春小説。生まれつき身体が弱くて入退院を繰り返す美咲、甲子園に出場するほど優秀な兄を持つ如月、それぞれの苦悩や叫びが克明に描かれていて、胸にまっすぐ飛び込んできた。理穂たちのパワフルな会話を聞いていると生命力を強く感じる。レッテルを貼らずに一人ひとりを見ることの難しさと大切さを知った気がする。

 

8.石崎洋司黒魔女さんが通る!!』(小説/2005~)
小学5年生の千代子は友人と「こっくりさん」をした結果、黒魔女を呼び出してしまい、黒魔女見習いとして修業をする羽目になってしまう! 千代子の学園生活の楽しそうな感じや、魔界に行って大変な目に遭うけれど乗り越えて無事で帰ってくる姿がとても印象に残っている。小学校高学年で多大なる影響を受け、呪文の一覧表を作って覚えたり友人と魔界通信販売誌『ベル魔ゾン』を作って遊んだりしていた。

 

9.はやみねかおる 名探偵夢水清志郎事件ノート(小説/1994~2009)
4月1日、隣の洋館に名探偵が引っ越してきた! ミステリをよく読むようになって今だからこそ分かる、私のミステリ好きの原点がここにあることに。「名探偵はみんなを幸せにできるように謎を解く」という信条が忘れられない。文化祭、文芸部、映画撮影、修学旅行など好きな要素が多く、青春ものを読む上での原点でもある。

 

10.板橋雅弘『ウラナリ』(小説/2005~2007)
ハンドボール部に所属する中学3年生・ひょろひょろのハヤブサの前に突然、見知らぬ美少女が現れた。気が強くてわがままな彼女・サクラのことが徐々に気になっていくハヤブサだが……? 気が強くてわがままでめんどくさい女の子は、かわいい! 全5冊なのだけれど最終巻では号泣した。サクラは何者なのか、2人の関係性はどうなっていくのか、最後まで読んで確かめてほしい。音楽小説好きやミステリ好きにも一役買っている。

 

11.白倉由美『きみを守るためにぼくは夢を見る』(小説/2003~)
10歳の朔は同い年の恋人・川原砂緒とプールでデートした帰り、誰かに誘い込まれるかのように公園で眠ってしまう。朔が公園で目覚めたとき、7年の時間が経過していて、砂緒は17歳になっていた。戻ってこない朔を、それでも待ち続けた砂緒の一途さ。10歳のまま成長していない朔を見るまわりの目の怖さ。大人になるとはどういうことなのか、恋をするとはどういうことなのか、をこの作品を通して知った気がする。

 

12.中村航『僕の好きな人が、よく眠れますように』(小説/2008)
研究室に北海道からやって来た女の子・恵。気の合う彼女に僕は惹かれていくのだけれど、決して恋に落ちてはいけない理由があった。絶対にいけないと分かっていても避けることのできない恋の引力に振り回されることを選んだ2人の物語。順番が違っていればよかったのかなとか、結局この2人は100パーセントの2人だったのかなとか、今でもよく考える。大人になってからラストシーンの再現をしたことがある。大晦日、東京タワーの前で。私が出会った小説の中で屈指の美しいシーンだと思う。

 

13.恩田陸夜のピクニック』(小説/2004)
高校最後の行事、80kmの道程を全校生徒で歩き通す「歩行祭」に挑む貴子は、自分の中だけである賭けをしていた。同じクラスの男子・融との2視点で歩行祭と貴子の賭けの行方が描かれていく、最高の青春群像劇。初めて読んだのはもう15年近く前なのに、いちばん好きな小説はと聞かれたら今でも挙げてしまう、私にとってのバイブル。読み返すたびに印象深い点が変わっていく。最近では昔のことを思い出すたびによく、「なぜ振り返った時には一瞬なのだろう。あの歳月が、本当に同じ一分一秒毎に、全て連続していたなんて、どうして信じられるのだろうか」という気持ちになる。忍が融にした雑音の話とか、みんなに忘れられてしまっても自分が覚えているからそれでいいという杏奈の芯の強さとか、夕陽の残光で金色に光る水平線を見ながら「あそこで誰かが待っている」と感じる気持ちとか、貴子の「それでも恋だったんじゃないの」とか、思考に影響を受けている場面を抜き出したら限りがない。大人数の生徒たちが入れ代わり立ち代わり現れては去っていく、その筆致が見事な青春小説であるほか、「貴子の賭けの中身は何なのか」「3年の女子を妊娠させた男子は誰なのか」「幽霊と噂される謎の少年は何者なのか」などの謎が物語を牽引していくミステリとしての読み方もできる。

 

14.津原泰水ブラバン』(小説/2006)
自分の結婚式で高校時代の吹奏楽部を再結成したい。先輩の願望に誘い込まれた他片は当時の仲間に声を掛けて回るが、中には連絡のつかないメンバーもいて……? 1980年代と25年後の現在が交互に描かれる青春群像劇。舞台は広島で生き生きとした広島弁が作中を駆け巡る。時が経って青春時代の仲間と再会して何か一つのことを成し遂げる、「同窓会もの」をすきになったきっかけの1作であり、竹内真『風に桜の舞う道で』も同時期に読んだ同テーマの小説として印象に残っている。「青春時代を共にした仲間が亡くなっていることもある」という展開は当時小学生だった私には強烈で、死生観にも影響を与えられた。

 

15.米澤穂信 小市民シリーズ(小説/2004~)
高校1年生の小鳩君と小佐内さん。2人は手と手を取り合って目立たず慎ましい小市民を目指しているが、小鳩君はなぜかいつも探偵として推理をしなければいけないような状況になってしまい……? 初読のときは分からなかったが、今思えば自分の目指す方向に必ず生きられるとは限らないこと、人には役割というものがどうしてもあってしまうことを知った気がする。『夏期限定~』が近所の書店になく取り寄せてもらって、入荷連絡が来たときに比喩でなく走って取りに行った。現在に至るまで何度も何度も読み返しているシリーズ。

 

16.米澤穂信 古典部シリーズ(小説/2001~)
省エネ主義の折木奉太郎は高校入学直後、姉から厳命を受け部員が1人もいなくなってしまった「古典部」に入部する。誰もいないはずの部室には目を惹く少女が佇んでいて……? 小市民シリーズを読んだ後、少し間を開けてから読んだ。間が開いた理由としてはポップな見た目の小市民シリーズと違って渋くて難しい印象を受けていたからなのだけれど、『氷菓』を読みながら「もっと早く読めばよかった!」と後悔したのを覚えている。影響を受けた部分は小市民シリーズよりも多いと思う。学校にプライベートスペースを作るという発想を得たり(実現はしなかった)、『愚者のエンドロール』のクライマックスでの奉太郎の言葉の意味が分からなくてずっと悩んだり、『クドリャフカの順番』を読んで文化祭に憧れたり。古典部シリーズも何度も何度も読んだのだけれど、年齢が奉太郎たちに近づくにつれて初読のときには分からなかった彼らの心の機微が感じ取れるようになってきてうれしかったのを覚えている。『クドリャフカの順番』の痛みとか、「あきましておめでとう」でえるが人を呼ぶのを躊躇った理由とか、『ふたりの距離の概算』での大日向の気持ちとか。今でも完璧に理解しているとは言い難い物語ばかりのシリーズで、だから一生かけて付き合っていくのだと思う。

 

17.越谷オサム『空色メモリ』(小説/2009)
文芸部をたった一人で守っている冴えない部長・ハカセに春が来た! かわいい新入生の野村さんとハカセがうまく行くように、部室に入り浸っているハカセの友人のおれは取り計らうのだが、そのうちおれが書いている小説が入っているUSBメモリが盗まれるという事件が起きてしまう。はやみねかおるの影響で文芸部と聞けば目がなかった時代に、新聞に載っているレビューを読んで書店まで買いに行ったのを覚えている。「ライトノベル」という単語を初めて知った、貴重な1冊である。

 

18.竹内真『文化祭オクロック』(小説/2009)
文化祭1日目の朝。校内放送からは「DJネガポジ」を名乗る人間の陽気なラジオが流れてきた。文化祭プログラムに予定されていない内容に戸惑う実行委員、秘密を拡散されて憤る美少女、好きな女の子を振り向かせるべく張り切る野球部の元エース、そして文芸部の「探偵」の4視点で文化祭の1日が描かれていく青春群像劇。『空色メモリ』の巻末に広告が入っていて、文化祭と聞けば目がなかった私は書店に買いに行った。今思うとミステリではないのだが、当時はDJネガポジの正体が誰なのかワクワクしながら読み進めたものだ。私の理想の文化祭がすべてここにある。これを読んだときは「余韻」というものをあまり理解しておらず、「竹内先生、2日目の話はなんで書いてくれないんだろう……」と思っていたものだ。「新海誠」「セカイ系」という単語を初めて知った、これまた貴重な1冊である。

 

19.霧舎巧 私立霧舎学園ミステリ白書シリーズ(小説/2002~)
横浜にある私立高校・霧舎学園。転入してきた2年生の琴葉は1日目から死体を発見してしまう。挙句に同級生の見知らぬ男子と事故でキスしてしまい……? 初めて読んだ人の死ぬ本格ミステリがこれだったので、ずいぶん経ってから邪道扱いされていると知り衝撃を受けた。4月編の巻頭に霧舎学園の入学案内が付いているのだけれど、それを読むのが楽しすぎて一時期「中高パンフレットマニア」になっていた(今でも若干そのきらいがある)。国公立理系、国公立文系、私立理系、私立文系などの分類を初めて知り、国英社の3教科だけで受けられる私立文系の大学を受けようと心に決めるきっかけになった、伝説の1冊である。

 

20.豊島ミホ檸檬のころ』(小説/2005)
教室の息苦しさ、夢を追いかける辛さ、東京への憧れ。田舎の高校を舞台に青春時代を描く連作短編集。『きみが見つける物語』のスクール編を読んで1編目の「タンポポのわたげみたいだね」に出会い、他の作品も読んでみたくて『檸檬のころ』を探した覚えがある。当時の私は小学生で、高校に多大なる期待があって、その期待を大いに助長させた1冊だったと認識している。高校生になればそれだけで何かが変わると信じていたが、実際はそうではないと気づくのはずっと先、すべてが終わってからのことだった。東京への憧れは、すなわち秋元加代子への憧れだったのかもしれないと、今になって思う。豊島ミホ作品は、この後10年くらいかけて読破した。

 

21.森博嗣『小説家という職業』(エッセイ/2010)
森博嗣先生の作家稼業事情がすべて分かる1冊。当時の私は小説を書くノウハウ本にハマっていて、そういうものだとばかり期待して読んだのだが、森先生の天才的エピソードばかりが出てきて度肝を抜かれた。よく覚えているエピソードは、横書きで出せる賞がメフィスト賞しかなかったから出した、シリーズもので1巻がいちばんおもしろいのが不満だったので少しずつおもしろくなっていくように計算しながら書いた、原稿を出した後も同じシリーズを投稿し続けていたら3作目を投稿した後に編集者から連絡が来て、「今4作目を書いている」と言ったら「それを1作目にして出版しましょう」と言われた、など。幼心にとんでもない作家がいると分かった。ここから『すべてがFになる』を読むまで7年くらいかかった。要はびびっていたのである。このエッセイを読んでいなかったら、私はもっと早く森ミステリィに出会っていたかもしれない。

 

22.谷川流 涼宮ハルヒシリーズ(小説/2003~)
ただの人間には興味ありません。俺の後ろの席の女は高校入学早々演説をぶちかまし奇行に走りまくっている。その女、涼宮ハルヒにうっかり話しかけてしまいなぜか気に入られた俺はSOS団というハルヒの作った謎団体に入る羽目になり……? 『空色メモリ』で「ライトノベル」という単語を初めて知った私が初めて読んだラノベがこれ。当時受験生だった私の唯一の夏の思い出がハルヒを読んだことであった。チームでの高校生活も文化祭も文芸部も映画撮影もすべてあり「私が読みたかったのはこれだ!」と心の中で快哉を叫んだ覚えがある。すべてにおいて影響を受けているが、いちばんは「メイド服への憧れ」だろうか。この後実際にメイド服を着るまで10年以上かかった。

 

23.はやみねかおる 少年名探偵虹北恭助の冒険シリーズ(小説/2000~2009)
野村響子は商店街のケーキ屋さんのかわいい看板娘。同級生の恭助は小学生なのに小学校に通っていない。なんとか恭助に学校に来てほしい響子は放課後によく恭助が店番をしている古本屋「虹北堂」に通うのだけれど……? 恭助の「ぼくは社会生活不適合者なんだ」という言葉がすごく印象に残っている。シリーズが終わるとき彼が取った選択も含めて、ことあるごとに思い出す作品である。

 

24.野村美月 〝文学少女″シリーズ(小説/2005~2011)
本を食べちゃうくらい好きな〝文学少女″の天野遠子先輩と、元覆面天才美少女作家の井上心葉少年。2人は放課後の文芸部でのひと時を和やかに(?)過ごしていたが、「あたしの恋を叶えてください」という依頼人が飛び込んできて……? ハルヒの次に読んだライトノベルがこれだったので、最初はハルヒとは違う暗いトーンに戸惑ったのだけれど、読み進めていくうちにどんどん虜になっていった。最終的には友人たちに貸しまくって〝文学少女″シリーズブームを巻き起こすところまで行った。影響を受けた2大台詞は「書かなくてもいい。ずっとそばにいる」と「あなたは受賞者にはなれても小説家にはなれない」。こちらもことあるごとに思い出す。遠子先輩が最後に選んだ道が切なくて、悲しくて、ちょっと分かるけれど私はこうはなれないなあ、と思いながら泣いていた。この後、野村美月作品を追いかけ続ける人生が始まる。

 

25.西尾維新 戯言シリーズ(小説/2002~2005)
天才の集まる島に工学の天才・玖渚友の付き添いで訪れたぼく・いーちゃんだが、殺人事件に巻き込まれてしまう! 涼宮ハルヒシリーズがきっかけで仲良くなった絵の上手な友人に貸してもらって読んだのだけれど、今まで読んでいた小説とは言葉選びの何もかもが違って衝撃を受けた。多感な時期に読んだので、どこに影響を受けたのかよく分からないレベルで影響を受けてしまっている気がする。このシリーズも初読では理解できない部分がいくつもあり、何度も何度も読み返した。「だったら一緒に、死んでくれる?」へのいーちゃんの回答とか、欠けている部分が多すぎて誰もが自分と似ていると思ってしまうといういーちゃんの性質とか、推しの巫女子ちゃんや最推しの姫ちゃんのこととか、今でもよく思い出す。

 

26.西尾維新 物語シリーズ(小説/2006~)
高校3年生の阿良々木暦はGW明け、階段の上から降ってきたクラスメイト、戦場ヶ原ひたぎを受け止める。彼女には体重がなかった。散々な目に遭いつつもひたぎに手を差し伸べようとする暦だったが……。『化物語』から始まる一連のシリーズ。読み始めたときには『花物語』までしか出ていなかったのだけれど、どんどん増えていった。最新刊を読むごとに推しヒロインが変わっていっていたのだが、『結物語』でようやく羽川翼に落ち着いた。自分の行為が無意味だったかもしれないと思うたびに心の中の阿良々木君が「無理だったかもしれない。無茶だったかもしれない。でも無駄じゃなかった」と言ってくれる、世間的に見てネガティブなことを選ぶときに「○○をする勇気!」と言って自分を奮い立たせてみるなど、様々な影響を受けている。

 

27.西尾維新 世界シリーズ(小説/2003~)
一学年下の最愛の妹のクラスメイトが殺されたらしい。櫃内様刻は保健室登校の問題児・病院坂黒猫と共に調査に乗り出す。西尾維新が描く究極の学園ミステリ。櫃内様刻が最後に辿り着いた答えに倫理観を揺さぶられ心が打ち震えた。文庫化と最終5巻をずっと待ち続けている。

 

28.野村美月ヒカルが地球にいたころ……』(小説/2011~2014)
外見で怖がられずっと友達ができない是光は、亡くなった美貌の同級生・ヒカルの葬儀に出席した帰り、幽霊になったヒカルに憑りつかれていることに気づく。関わった女の子たちへの心残りを晴らさないと成仏できないと宣うヒカルに辟易しながら、是光はしぶしぶ女の子に声を掛けていく羽目になるのだが……。『源氏物語』をベースにした、野村美月先生の〝文学少女″シリーズの次の物語。これがきっかけで『源氏物語』に興味を抱き、大学の卒業論文でも『源氏物語』を扱った。

 

29.相沢沙呼/市井豊/鵜林伸也/梓崎優/似鳥鶏『放課後探偵団 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー』(小説/2010)
酉乃初シリーズと聴き屋シリーズと市立高校シリーズに出会い、鵜林先生と梓崎先生のことを知るきっかけになった伝説のアンソロジー。梓崎先生の「スプリング・ハズ・カム」という素晴らしい青春ミステリが収録されており、今のところここでしか読めないため、未読の方は是非チェックしてみてほしい。

 

30.似鳥鶏 市立高校シリーズ(小説/2007~)
葉山君の通う高校の部室棟には幽霊が出るらしい。怖がる吹奏楽部員に調査を依頼された美術部の葉山君は、実際に幽霊に遭遇してしまい、名探偵の先輩・文芸部の伊神恒さんに助けを求める。読み始めた頃にちょうど新刊が出たので定期的に新刊が出るシリーズだと思っていたらその後何年も出なくてびっくりした思い出。文化部への憧れを強めていくきっかけのシリーズとなった。柳瀬沙織さんという演劇部の憧れの先輩が出てくる。似鳥先生はこれ以降ずっと追いかけている。

 

31.相沢沙呼 酉乃初シリーズ(小説/2008~)
姉に連れられていったバーで出会ったマジシャンは、美少女クラスメイトだった! ポチこと須川君は彼女、酉乃初と共にささやかな日常の謎に遭遇していく。須川君の恋の行方はいかに? 前述の葉山君も須川君も下の名前が明かされないので、日常の謎作品にはそういう様式美があるのかと勘違いしていた。相沢先生もこれ以降ずっと追いかけていて、『ラプンツェルプレッツェル』のサイン会には何としてでも行きたいと思っている。

 

32.村崎友/五十嵐貴久/近藤史恵/三羽省吾/はやみねかおる『学園祭前夜―青春ミステリーアンソロジー』(小説/2010)
はやみね先生の短編目当てで読んだら全部がおもしろかった。特に村崎友先生の「ディキシー、ワンダー、それからローズ」が初めから終わりまで好き。Twitterを始めたてのころにこの作品が好きだとつぶやいたら、村崎先生のお知り合いだというフォロワーさんを通してお礼を言われて驚いた思い出がある。村崎先生はその後も青春ミステリ界でご活躍されていてとてもうれしい。

 

33.アサウラベン・トー』(小説/2008~2014)
半額弁当争奪戦。閉店間際のスーパーで行われるそのバトルにはいくつものルールがある。これはその美しさに魅せられた高校生たちの熱き戦いの記録である。とんでもない設定だがめちゃくちゃおもしろいのでおすすめのシリーズ。影響を受けた部分と言えば、主人公・佐藤洋の変態っぷりであろうか。変態という人種を初めて目の当たりにし衝撃を受けたことを強く覚えている。26の阿良々木君とこの佐藤、そして次に紹介する作品の主人公の杉崎鍵は、私の中では3大変態として名高い。

 

34.葵せきな生徒会の一存』(小説/2008~2013)
人気投票で美少女ばかりが集まる生徒会執行部に学力枠で入ることになった杉崎鍵は美少女たちと毎日楽しい生徒会活動を繰り広げる。全編の8割以上がボケツッコミの会話劇やパロディ等の伏字多発などとにかく新鮮で毎巻笑い転げていた。4回あったラジオ回がいちばん好き。最終巻では号泣が止まらなかった。会長の最初の(パクリ)名言「世の中がつまらないんじゃないの。貴方がつまらない人間になったのよっ!」は、常に心の中に留め置いて、つまらないと感じるたびに思い出すようにしている。

 

35.竹宮ゆゆことらドラ!』(小説/2006~2010)
目つきが悪すぎて周りからヤンキーだと思われている高須竜児は高校2年の春、間違って差し出したラブレターを取り返すために木刀を持って家に殴り込んできた美少女・逢坂大河と出会う。大河は竜児の親友の北村を、竜児は大河の親友の櫛枝実乃梨を好きだと判明したためお互いに協力することになるが……? 恋愛模様がこんがらがる最高の青春群像劇。私は大河も亜美も大好きだけれどやっぱり櫛枝実乃梨派で、幽霊の話とかに影響を受けた。櫛枝実乃梨みたいな女の子にずっとなりたいと思っていた。

 

36.葉村哲おれと一乃のゲーム同好会活動日誌』(小説/2010~2014)
生まれ持った異能を持て余す高校生たちは放課後ゲームに明け暮れる! 基本的に日常ものなのだけれどたまに衝撃の事実が明かされたりするので目を離せない。初めて評判を聞いてではなく書店で気になって手に取ったライトノベルがこれだった。サブタイトルがいつも「終わり」にちなんでいて好き。このブログの由来にもなった。

 

37.渡航やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』(小説/2011~)
捻くれ高校生・比企谷八幡は国語教師の平塚静に呼び出され奉仕部という謎部活に加入することになる。奉仕部には雪ノ下雪乃という美少女が所属していて……? 2010年代を代表する青春ラブコメ、言わずと知れた俺ガイル。比企谷八幡という主人公との出会いはどう考えても私の人格形成に影響を与えている。私が東野圭吾伊坂幸太郎をあまり読まないのはどう考えても比企谷八幡のせいではないだろうか。6巻の八幡の行動には心揺さぶられた。本編完結の2019年に私の青春も終わったのかもしれないと今になって思う。いちばん影響を受けた考え方は、けれどマイベストヒロイン由比ヶ浜結衣のこの台詞。「始め方が正しくなくても、中途半端でも、でも嘘でも偽物でもなくて……、好きって気持ちに間違いなんてない……と、思う、けど……」若い時分に彼女のこの台詞に心打たれていなければ、道を誤っていたのではないかと思う場面がいくつもある。由比ヶ浜結衣にはいくら感謝してもしきれない。

 

38.京都アニメーション氷菓」(アニメ/2012)
16の古典部シリーズが映像化すると知って楽しみにしていた作品。アニメをほぼ見ることのない幼少期を送っていたため、こんなにも美しいアニメーション作品があるのかと衝撃を受けた。私に(たまにレベルだが)アニメを見る習慣がついたのは、間違いなく「氷菓」のおかげである。

 

39.河野裕サクラダリセット』(小説/2009~2012)
リセット。ひと言つぶやくだけで世界を3日間巻き戻せる少女・春埼美空と、巻き戻されてなくなった時間のことも覚えていられる完璧な記憶保持能力を持つ少年・浅井ケイが、能力者の街・咲良田で起きた事件を解決していく物語。思考をすべて作り替えられたレベルで影響を受けているので例を挙げることが難しい。コンテンツの好みさえ大きく左右されている。私は今でもこのシリーズを河野裕先生の最高傑作だと思っているが、それはそれとして河野裕先生の最高傑作は常に最新作だと信じてもいる。

 

40.河野裕『ベイビー、グッドモーニング』(小説/2012)
サクラダリセット』最終巻と同時発売だった短編集。「ジョニー・トーカーの『僕が死ぬ本』」の小説家の文章を書くことについての考え方とか、「八月の雨が降らない場所」の献身とかに影響を受けている。スニーカー文庫版で何度も読み返している本で、角川文庫版を読んだときになんとなく「スニーカー文庫版のほうが好きだな」と思った記憶がある。

 

41.野﨑まど『2』(小説/2012)
天才脚本家・御島鋳の劇団『パンドラ』に厳しい審査を経て入団した青年・数多一人。だが『パンドラ』は新たに入団審査を受けに来たある少女によって壊されてしまう。彼女の名は、最原最早といった。2012年8月25日。奇才・野﨑まどを一生追いかけていこうと決めた日。今でこそ『2』を読む前に『[映]アムリタ』~『パーフェクトフレンド』を読んでいたほうがいいことは周知されているが、発売日に読んだ私はそんなことは知らず『死なない生徒殺人事件』を未読のまま『2』を読んでしまった。読書人生における最大の過ちかもしれない。もしもこの文章を読んでいる方でアムリタからの5冊を読まずに『2』を読みたいと思っている方がいたら、悪いことは言わないから5冊とも読んでから『2』を読んでほしい。一生のお願いです。

 

42.青崎有吾 裏染天馬シリーズ(小説/2012~)
6月、雨の日。体育館の舞台上で男子生徒が死んでいるのが見つかった。女子卓球部の部長が犯人扱いされてしまう中、部長を尊敬する柚乃は藁をもす縋る思いで天才に頼ることにした。全教科満点で学年首位、学校に住んでいると噂される変人・裏染天馬に。この頃の私は人の死ぬミステリが怖くて苦手だったのだけれど、このシリーズは読んでいた。クローズドサークルにはならず、警察が入ってきっちり捜査してくれるのがうれしかった。青崎先生もこの後追いかけ続ける。この日の出会いが私の大学時代に多大なる影響を及ぼすことになるのだが、それはまた別の話。

 

43.有川ひろ 図書館戦争シリーズ(小説/2006~2008)
あらゆる図書が検閲され表現の自由が失われつつある時代。図書館の自由に関する宣言に基づき、全国の図書館は「図書隊」という防衛組織を持っていた。大学卒業後図書隊に入ることを選んだ笠原郁。高校生のときに助けてくれた憧れの王子様を追いかけてきたのだが、彼女の図書隊生活は一筋縄ではいかなくて……。文庫化を機に読んで、当時仲の良かった友人たちと全員でどハマりした伝説のシリーズ。郁の「貴方を追いかけてここまで来ました」という言葉をいつか誰かに言いたい気持ちがある。追いかける相手が誰なのか、はっきりとしていないところが難しいところだ。男性陣の推しは手塚光。女性陣だと柴崎。

 

44.庵田定夏ココロコネクト』(小説/2010~2013)
文研部に所属する高校1年生の太一たち5人はあるとき魂と身体が入れ代わる不思議な現象に見舞われてしまう。解決したかと思いきや次々と変な現象に巻き込まれていく5人だが、その中で様々な関係が変化していき……。ライトノベルにおける青春群像劇の、最高峰近くに位置する作品だと思っている。太一が恋している永瀬伊織という少女が私はとても好きで、そんな彼女が4巻で「イメチェン」したことがうまく受け入れられなかった。今思えばなぜできなかったのだろうと後悔することしきりだけれど、この経験は確実に私を作っている。

 

45.更伊俊介犬とハサミは使いよう』(小説/2011~2015)
三度の飯より本が好きな高校生・春海和人は突然予期せぬことで命を落としてしまう。どうしても本が読みたい、その一心で転生した和人だったが、自分が犬になっていることに気付き……? 犬になってでも本が読みたいという和人の執念と、次々に出てくる作家や編集者や読書家といった本に関わる個性豊かな人々に圧倒され、こんな世界があるんだ、と明るい気持ちになった。出てくる本はすべてオリジナルなのだがあらすじや装丁の設定がいちいち凝っていて楽しい。アニメの円盤の特典を最後に文庫にまとめて出してくれたときには感動した。

 

46.朝井リョウ『少女は卒業しない』(小説/2012)
その高校では今年度の卒業式が3月25日に行われる。翌26日から校舎の取り壊しが始まるため、生徒たちの希望でそうなった。卒業式の朝に、始まる前に、最中に、終わった後に。様々な想いを秘めた少女たちが、最後のときを過ごしてゆく。7編すべてがゆるやかなつながりを見せ、最初のほうの短編では謎だったことが後の短編で明かされるような、うれしいたくらみに満ちた連作集。この本を手に取ったのがどこの書店で、どのあたりの棚だったのか、明確に覚えている。朝井先生の作品は『桐島~』を読んでいて、そのときにはあまりピンと来ていなかったのだけれど、こちらは好みにどんぴしゃで、何度も何度も読み返した。今年めでたく映画化され、映画版の『少女は卒業しない』も、ちょっとありえないくらい素晴らしい作品だったので、今この文章を読んでいる方で少しでも気になっている方がいたら、ぜひ劇場に足を運んでほしい。間違いない1作だから。

 

47.杉井光神様のメモ帳』(小説/2007~2014)
高校1年生の冬、友達のいない僕はクラスメイトの彩夏に連れられてニートたちに出会い、知らなかった世界を見た。少しおかしなこの時間がずっと続くと思っていた……彩夏が屋上から飛び降りるまでは。ニート探偵・アリスの助手になった僕、ナルミはニート探偵団の力も借りながら、彩夏がその選択をした理由を探ろうとするが……? 初めての杉井光がこの作品で、なんて読むのが苦しくて、痛切で、なのに惹き込まれてしまう物語を書くひとなんだろうと思った。私が読み始めたときにはもう8巻まで出ていたのだけれど、最終9巻は長年待った上で読むことができた。もしも途中でやめてしまった、最終巻は読めていない、という方がいたらこの機会に読んでみてほしい。ナルミとアリス、そして世界一かっこいいニートたちの選択と未来を、その目に灼きつけてほしい。

 

48.杉井光さよならピアノソナタ』(小説/2007~2009)
高校生になる前の春休み、電車に乗っていった先の「心からの願いの百貨店」と名付けたゴミ捨て場で、ナオはゴミたちが音楽を奏でているのを聴く。その中心でピアノを弾いていたのは透き通るような琥珀色の髪をした一人の女の子で……。私の「いちばん好きなライトノベル」の座に長年にわたって君臨し続けた(ひょっとしたら今もし続けている)伝説の青春音楽ストーリー。ナオと真冬と千晶と響子。彼らはほんとうに大切なことだけはどうしても伝えることができなくて、実はばらばらだったのに音楽が彼らを強く結びつけていて、だからなんでも分かっているような気になってしまっていた、というところがとてもいとおしい。だって小説っていうのは、言葉にしてしまえば簡単なことを、なのに伝えることができない、弱くて不器用でやさしいひとびとのためにあってほしいと願っているから。

 

49.杉井光『終わる世界のアルバム』(小説/2010)
亡くなった人が次々と記憶から消滅してしまう世界で、自分のカメラで撮った人間のことは亡くなっても覚えていられるぼく=マコは、あるときクラスに見たことのない少女が紛れ込んでいることに気付き……? シリーズものではなく1冊完結の作品なのだけれど、だからこそ完成度が驚くほど高い。豊島ミホの『エバーグリーン』を読んで「奈月」という名前が異常なまでに気に入っていた私は、いつかどこかでその名前を使おうと思っていたのだが、杉井光がこの作品のヒロインの名前に使っていたので、ひっそりと諦めた。この小説を読んでいなかったら、もしかしたら私のハンドルネームは「奈月」だったかもしれない。この前単行本版を見つけて買ってしまった。

 

50.杉井光『生徒会探偵キリカ』(小説/2011~)
8億円。中高一貫マンモス校・白樹台学園の年間生徒会予算だ。そのすべてを管理しているのは、生徒会執行部会計の聖橋キリカ。生徒会長により生徒会執行部に引っ張られた主人公・牧村ひかげは不登校児のキリカのお世話をするうちに彼女にもう一つの役職「探偵」があることを知り……? 生徒会と探偵。当時の私の2大好きなものが組み合わさったこの単語に心が躍らないわけがなかった! ひかげの詐欺師っぷりが毎巻ツボだった。好きなヒロインは生徒会中央議会議長の神林朱鷺子さんで、彼女と会長の関係性がとても好き。2巻のあとがきで明かされる「聖橋」の由来がずっと頭に残っていて、今でもたまにその場所を通るたびに白樹台学園のことを思い出す。で、S2はまだですか?

 

51.金子茂樹『SUMMER NUDE』(ドラマ/2013)
写真館で働いている三厨朝日は3年前に突然目の前から姿を消した恋人のことを忘れられずにいた。そんな彼の前に結婚式場で結婚相手に逃げられた女・千代原夏希が現れる。シェフである彼女を朝日は、オーナーが産休中の海の家の料理人になってもらおうとお願いするが……? 千葉の海に面する町で大人たちのモラトリアム・ラブストーリーが始まる。夏、花火、多角関係、青春群像劇。私の好きな要素がすべて詰まったドラマだし、好きな要素をこれで形作られたといってもいい。5の『プロポーズ大作戦』の脚本家がふたたび山下智久長澤まさみでドラマを作ると聞いてとても楽しみにしていたのだけれど、想像以上の作品だった。このドラマの研究をしている先生のいる大学に行こうとしていた過去を持つ。

 

52.似鳥鶏 戦力外捜査官シリーズ(小説/2012~)
警視庁捜査一課火災犯捜査2係の設楽は部長からキャリア組のお守りを押し付けられる。彼女・海月千波は身長は150cm弱の美少女だった! このシリーズは、警察ではない、本来であれば事件を止められる力を持たないはずの一般市民たちの勇気ある行動によって惨劇が防げるという場面が終盤に毎回あって、そこでどうしても泣いてしまう。私もどこかで誰かの役に立てるかもしれないという気持ちが捨てきれないのは、この作品のおかげかもしれない。

 

53.野村美月『吸血鬼になったキミは永遠の愛をはじめる』(小説/2014~2017)
バスケ一筋の高校生・詩也はその夜、人ではないモノになってしまった。強豪校からの転校を余儀なくされ気力を失った詩也が転校先の高校で出会ったのは、聖女のような上級生、演劇部の春科綾音で……? 『ヒカル~』を完結させた野村美月先生が次に始めたシリーズ。1巻を読んだ時点で「これは〝文学少女″シリーズを超えるシリーズになる!」と思っていたのだけれど、残念ながら5巻で打ち切りになってしまった。私が経験した初めての打ち切りだったので、当時は随分と意気消沈したものである。実は今でも少し引きずっている。5巻が出た半年後に単行本でその後の話が出た。やっぱり野村美月先生が想定した終わり方で読みたかったなあと思った。

 

54.野村美月『陸と千星~世界を配る少年と別荘の少女』(小説/2014)
新聞配達のアルバイトをしている、絵を描くことが好きな中学生・陸と、両親が離婚の話し合いをしている夏の間別荘で過ごすことになった同い年の千星。ひと夏の切なくて儚い恋の行方は? 陸が千星の別荘に毎朝新聞を届けるのだけれど、2人はほとんど言葉を交わさない。それでも少しずつ惹かれていく。究極の恋だと思う。好きな要素がたくさん詰まっていて、夏になるたびに読み返したくなる作品。

 

55.庵田定夏『アオイハルノスベテ』(小説/2014~2016)
輪月高校の生徒だけ発動する特殊能力・シンドローム。それによって高校3年間巻き戻った横須賀浩人は、高校生活をやり直しながらまき戻りのきっかけになった女子生徒を探そうとするが……? 最高のオールデイズ青春グラフィティ。『ココロコネクト』を完結させた庵田定夏先生が次に始めたシリーズ。こちらも「順当に完結すれば『ココロコネクト』を超える!」と思っていたのだけれど、残念ながら最後のほうはかなり駆け足で完結してしまった。こちらは『吸血鬼~』以上に引きずっている。

 

56.七月隆文ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(小説/2014)
大学生のぼく・南山高寿は通学電車の中で一目惚れする。一世一代の決心をして話しかけたら、彼女が不意に泣き出して……? この頃の私はインターネットで新刊情報や気になる本の情報を収集するようになっていたので、書店に行ってパッと目についた本を読むということがめっきりなくなってしまっていたのだけれど、この作品は久々に「一目惚れ」した本だった。すぐに読んで、感想をどこかに残したくて、読書ノートを書き始めたのをよく覚えている。気づいたら非常に話題になっていて、ものすごく売れていて、初版で読んだ私は一人でこっそり鼻を高くしていた。映画版も好き。

 

57.河野裕 階段島シリーズ(小説/2014~2019)
11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。捨てられた人々が集まる島で平穏に暮らしていた高校生の七草は、彼女・真辺を島から追い出そうとする。彼女だけには絶対に会いたくなかったから。新潮文庫nexという新レーベルが始まると聞いて、執筆陣に河野裕の名前を見つけたときの気持ちは今でも忘れられない。竹宮ゆゆこもいたので「この2人を引っ張ってきてくれるなんて!」と感動した。タイトルも表紙も本当に好きで、ずっとワクワクしていて、もちろん中身も最高だった。階段島シリーズに関しては何時間でも語れるほど思い出があるので、詳しくはまた別の機会に譲るけれど、真辺と七草と、堀を隣で見てきた青春時代が、私の大部分をつくっていることは間違いない。

 

58.河野裕/河端ジュン一『bell』(3D小説/2014~)
この作品に関しては説明が必要かもしれない。ネット上でリアルタイムで更新されていく小説の中の謎を現実の読者が解いたり行動したりすることで話の展開が変わっていく、「飛び出す小説」である。絶望の中にいて死ぬ運命にある少女を救うストーリーで、世界観のすべてが謎になっており、「飛び出す」企画と合わせてとても惹き込まれる物語だった。2014年の夏に第一部が、クリスマスに第二部が行われ、残る第三部で完結なのだが、残念ながらいまだに第三部が行われる気配がない。準備も開催中も本当に大変な企画だと思うので3D小説の形で開催することは難しいかもしれないが、残された大量の謎の答えが気になるので、どんな形であれ実現してほしいと願っている。それが果たされない限り、私はいつまでも水曜日のクリスマスにいる。

 

59.竹宮ゆゆこ知らない映画のサントラを聴く』(小説/2014)
23歳、無職。錦戸枇杷の前に親友の元カレ・昴が現れる。なぜか女装をしているそいつと、枇杷はひょんなことから同棲することになり……? 『ゴールデンタイム』を完結させた竹宮ゆゆこライト文芸界に颯爽と現れた! 独特のゆゆこ節は本作でも健在で、辛い話ではあるのだけれど読んでいるのがとても楽しかった。まるで知らない映画のサントラを聴いているときのように、耳心地よくていつまでも浸っていたくなるような、とにかく好きな物語。

 

60.森見登美彦ペンギン・ハイウェイ』(小説/2010)
小学4年生のアオヤマ君は今でも賢いのに努力を欠かさない。だからうんと賢くなって、いつか――。友人にすすめられて読んだ初めての森見作品。この後森見作品にドハマりし、最終的には友人と私で森見作品聖地巡礼に行くまでになった。この作品は本当にいとおしくて、切ない。アオヤマ君が夢を叶えられることを、ずっと願っている。もしも小学生の時分に読んでいたら、もしかしたら理系に進んでいたかもしれない。映画版もとてもとても好き。

 

61.森見登美彦夜は短し歩けよ乙女』(小説/2007)
大学生の私はサークルの後輩である黒髪の乙女にずっと恋している。あの手この手で偶然を装って彼女に会いに行く先輩だが、彼女は「奇遇ですねえ」と笑うばかり。春の先斗町で、夏の古本祭りで、秋の学園祭で、冬の京都の街中で。私と黒髪の乙女のめくるめく1年間を追いかけるとびきりの青春小説。これを読んで下鴨神社の古本市に行き、進々堂に行った。黒髪の乙女のように夜の町を練り歩きたいなと夢見ているのだが実現する気はしない。映画版の記憶も強く残っている。

 

62.河野裕『つれづれ、北野坂探偵舎』(小説/2013~2018)
天才作家の雨坂続と、元編集者で今はカフェ・徒然珈琲のオーナーの佐々波蓮司。二人は徒然珈琲で背中合わせに腰かけながら、物語を作るように幽霊がらみの事件を解決していく。河野裕先生の隠れた名作。『サクラダリセット』や階段島シリーズと比べて読んでいる人が少なく、もっと読まれてほしいという気持ちと独占していたい気持ちがないまぜになっている。書くことと読むことについて、小説について、それから才能についての物語。4巻が過去篇で、佐々波蓮司の元恋人との話が語られるのだけれど、その彼女――萩原春を私は愛している。あちら側へ行けなかった彼女が、彼女が選んだ道が、いとおしくてたまらない。一時期校正者になろうかと思っていたほど影響を受けている。佐々波蓮司と萩原春は、河野裕作品の中でいちばん好きなカップリングである。

 

63.米澤穂信『王とサーカス』(小説/2015)
フリー記者の太刀洗万智は、取材で訪れたネパール・カトマンズで皇族が皇太子に殺されるという大事件に遭遇する。情報を得るためにコンタクトを取った相手が翌日死体となって見つかり、太刀洗は苦悩する。この男は、私のために殺されたのか? 初めて米澤穂信先生のサイン会に行き、為書き入りのサインを書いてもらった思い出の一冊。手紙を渡したら「拝読いたします」と受け取っていただけたことがずっと忘れられない。『王とサーカス』を読むまでは米澤先生は青春ミステリの作品しか読んでいなかったのだけれど、これを機に全作読破した。太刀洗万智の心を苦しめたその問いは、ずっと私の胸に留め置かれている。

 

64.米澤穂信さよなら妖精』(小説/2004)
「哲学的意味はありますか?」異邦からやって来た少女・マーヤとの出会い。彼女が自分の国に帰った後、おれたちの最大の謎解きが始まった。初めて読んだのは27の世界シリーズを読んでいたあたりのときなのだけれど、実感を持って感じられるようになったのはこの頃だった。マーヤがクライマックスで言った言葉の意味も、結末も、かつての私にはまるで理解できていなかったのだが、ようやく分かってきた。今でも本当に、理解したと言えるのかは自信がないけれど。それでも私は守屋路行のその想いに意味はあったと、信じている。

 

65.三秋縋『三日間の幸福』(小説/2013)
寿命を買い取ってくれる店があるらしいと聞いた俺は金の工面のためにその店を訪れるが、予想外に安い値段を付けられてしまう。どうやら俺の人生にはこの先悪いことしか起きないらしい。3か月間を残し寿命を売り払った俺は、監視員として付いたミヤギという少女に見られながら余生を過ごすが……? 初めて読んだ三秋作品で、この後、三秋縋が描く幸福に魅せられて現在に至ることになる。どうしようもなかった俺=クスノキがミヤギと過ごすうちに気付いたことは、今でもふとしたときに思い出す。

 

66.三秋縋『君が電話をかけていた場所』『僕が電話をかけていた場所』(小説/2015)
生まれつきある顔の痣によって皆から気味悪がられてきた深町陽介は高校入学前、深夜に公衆電話のベルが鳴っているのを耳にする。おそるおそる受話器を取った陽介に、電話の向こうの女は「諦め切れない恋が、あなたにはあるはずです。違いますか?」と問いかけ……? 忘れられない夏の物語。電話二部作と勝手に呼んでいる。1頁目の1行目から惹き込まれるという稀有な経験をした。この作品で描かれる四角関係がとても好きで、私の中では青春群像劇枠にも入っている。荻上千草はマイベスト三秋縋ヒロイン。

 

67.三秋縋『いたいのいたいの、とんでゆけ』(小説/2014)
大学4年生の秋。内定が出ず唯一の友人を亡くした僕・湯上瑞穂は、これまた唯一の大切な思い出の相手である小学校のころの同級生に久しぶりに手紙を出す。しかし彼女は待ち合わせ場所に現れない。落胆した僕は飲酒運転をした挙句、少女を轢いてしまった、はずだった。「私、死んじゃいました。どうしてくれるんですか?」いろいろなものを先送りにできる能力を持つその少女は自分の死を先送りにしたのだった。人殺しと殺された少女による執行猶予のような九日間が始まる。三秋縋が描く退廃的で暴力的な美しさに狂おしいほど惹かれた一冊だった。実は私が初めて認識した三秋作品はこれだったのだけれど、ちょっと怖そうだから読むのを「先送り」にしていた、という思い出がある。〈魂の同窓会〉という表現がとても好き。

 

68.野﨑まど『バビロン』(小説/2015~)
東京地検特捜部の検事・正崎善は政治絡みの事件を追ううちに背後で見え隠れする悪に気付く。その正体は……。「読む劇薬」と称された、野﨑まどのシリーズもの。講談社タイガの第一回配本で、「野﨑まどの新作が読める!」とうきうきしていたらとんでもないものが上梓されて驚愕した。現在3巻まで出ており、アニメ化も果たしたのだが、一向に4巻が出ない。多くの人に読んでほしい作品ではあるが、大変なところで終わっているため、4巻の刊行予定が出てから3巻までを読んだほうが、まだしもダメージが少ないかもしれない。善とは、悪とは、ということを考える機会があるたびに、頭の中にぼんやりとあの人物の顔が浮かぶ。

 

69.森晶麿 黒猫シリーズ(小説/2011~)
若き大学教授の黒猫と、同級生で大学院生の付き人。事件に遭遇するたびに開催される黒猫の美学講義を通して、付き人は学者としても人としても変化していく。黒猫と付き人の関係性がたまらない本シリーズ。文庫で4作目まで読んだ後、迷わずに単行本で出ていた5作目と6作目を購入したのをよく覚えている。単行本の装丁がとても好きで、今度(2023年3月23日)久しぶりの新刊が出るのでとても楽しみにしている。黒猫と付き人の「口にしない」関係性がやはりすごく好きだ。

 

70.野木亜紀子掟上今日子の備忘録』(ドラマ/2015)
西尾維新忘却探偵シリーズを原作にしたドラマ。掟上今日子役の新垣結衣の白髪の異様なまでの似合いっぷりと、隠館厄介役の岡田将生との相性抜群っぷりが見ていて大変楽しい。そして特筆すべきは脚本家・野木亜紀子の「原作もの」の再構成のうまさだろう。ミステリである原作小説をところどころ映像映えするように変換したり、1つの作品として完結したものに仕上がるように今日子さんと厄介の関係性に焦点を当てたりと、2023年3月現在どこのサービスでも配信していないのが本当に惜しいほど完成度の高いドラマになっている。ドラマ今日子さんよ永遠なれ。

 

71.SBS『主君の太陽』(韓国ドラマ/2013)
事故に遭って以来幽霊が見えるようになってしまったゴンシルは、執拗に話しかけてくる幽霊たちに悩まされていたが、あるとき大手ショッピングモールの社長であるジュンウォンに触れれば幽霊たちがいなくなることに気付く。最初はゴンシルを鬱陶しがっていた冷血漢のジュンウォンだが、次第に心を開き始め……。「過去に大切な人を亡くした御曹司が好き」という私の性癖が確立された作品。一時期OSTを聴きまくっていた。

 

72.MBC『キルミー・ヒールミー』(韓国ドラマ/2015)
大手財閥の御曹司・ドヒョンには知られてはいけない秘密があった。それは過去のある事件がきっかけで7つの人格を持つ多重人格者になってしまったということ。アメリカで勉強していたドヒョンは韓国に帰国し副社長になるのだが、しばしば別人格が出てきてしまい……? 韓国ドラマでいちばん好きな作品。ミステリとしてもかなりおもしろい、というか好み。ドヒョンを最初は患者として、次第に大切な人として支えていくリジンの献身や、リジンの弟で超人気覆面作家のリオンの想いもたまらなく好き。

 

73.日本テレビ『臨床犯罪学者 火村英生の推理』(ドラマ/2016)
このドラマが放送されたとき、私はまだ有栖川有栖作品に出会っていなかったが、インターネットのミステリ好きの方々の話題になっていたことなどがきっかけで観てみたら、ドラマにも小説にも見事にハマってしまった。このドラマから学んだいちばん大切な気持ちは、「好きな小説がドラマ化(映像化)されたときのスタンス」である。小説には小説の表現があるように、映像媒体には映像媒体の表現があること。関わっている方々へのリスペクトの気持ちを決して忘れてはならないこと。自分には合わないかもしれないと思ったらその時点で見るのを止めればいいということ。映像化作品を貶して騒ぐことは小説を原作として提供した作家先生に対する営業妨害にもなりかねないこと。などなどを、様々な方々を反面教師にして勉強することになった。さらに、これを機に火村とアリスを演じた俳優さんのお2人にもハマるなどした。あれからもう7年も経ったなんて信じられないほど、脳裏に鮮明に灼きついていて昨日のことのように振り返ることのできる、幸福な記憶だ。

 

74.有栖川有栖 火村シリーズ(小説/1992~)
京都は英都大学の社会学部で講義を受け持っている社会犯罪学者の火村英生は、しばしば京阪神の警察に依頼され殺人事件への捜査協力を行っている。そんな彼の「フィールドワーク」に同行するようになる推理作家の有栖川有栖。2人は学部は違うものの大学の同回生で長年の友人であり、息の合ったコンビネーションは見どころの1つである。初めて「本格ミステリ」というものを意識して読んだのがこのシリーズ。シリーズ23作目の『鍵の掛かった男』を読んだときに「人の死について描くということは、人の生について描くということなのだ」と圧倒的な筆力でもって分からされた経験は、今でも奥深くに根付いていて、だからずっとミステリを読み続けてられているのだと思う。シリーズ24作目の『狩人の悪夢』がシリーズを読み始めてから初めての新作で、素晴らしい装丁の単行本を書店で見つけたとき身体が震えたのをよく覚えている。あの頃の私はいつも火村とアリスのことを考えていて、どんな文章を読んでも火村シリーズのことを思い出していた。影響を受けた部分は、「異常だの正常だの、簡単に線引きできやしない。私こそが正常の標本です、という奴がいたらお目にかかりたいもんだ」(『朱色の研究』より)と、「とても共感などできない主義、思想、趣味でも、理解は可能でありたい」(『ダリの繭』)という2人の共通認識だ。この2場面に出会っていなければ私は、今よりもっと最悪な人間だったことだろう。

 

75.相沢沙呼小説の神様』(小説/2016~)
中学生でデビューしたもののその後の売上が鳴かず飛ばずの高校生作家・千谷一也。スランプに陥った彼に担当編集が持ち込んだ企画は、人気美少女高校生作家・小余綾詩凪との共作で……? 2人が共作することを通して「小説は、好きですか?」という問いに向き合っていく過程が繊細に描かれていて、とても好きな1冊。相沢沙呼先生の長年のファンとして、作中で語られるエピソードに胸を痛めることも多々あったけれど、その生々しさと熱量が『小説の神様』の大ヒットに繋がったので、最終的には安心した。目にするたび「小説を好き」というまっさらな気持ちを思い出せる大切な作品。

 

76.北村薫 円紫さんと私シリーズ(小説/1989~)
大学2年生の〈私〉は、大学のOBである落語家・春桜亭円紫さんと知り合い、成り行きで長年不思議だった出来事を解決してもらう。その後も〈私〉は何かと「日常の謎」と呼ぶべき事象に遭遇するのだが、そのたびに円紫さんは持ち前の聡明さで誠実に謎を解いていき……? 米澤穂信先生が北村薫先生との対談で影響を受けたと言っていて、それ以来ずっと気になっていたのだが、このタイミングで読めてよかったと個人的には思っている。日本文学専攻の〈私〉の教養の深さや興味の幅広さに憧れ、さらに『六の宮の姫君』を楽しめたなら文学研究もきっと楽しんでやっていけるだろうと考え、胸を張って文学部に進学できた。今の自分はこのときこのシリーズを読んだからあるのだ、と間違いなく言える。

 

77.鴨志田一 青春ブタ野郎シリーズ(小説/2014~)
高校1年生、5月。梓川咲太は図書館で野生のバニーガールに出会った。彼女の正体は同じ高校の2年生の桜島麻衣。現在は活動休止中だが子役の頃から芸能活動を行い様々な映画やドラマに出ては話題になっていた超有名人である。そんな麻衣の姿が周りの人から見えなくなってしまったというのだ。咲太は麻衣のことを助けるべく奔走するが……? 名作『さくら荘のペットな彼女』を完結させた鴨志田一先生が次に始めたシリーズ。空と海に囲まれた街・藤沢という舞台や江ノ電に乗って七里ヶ浜まで通学する咲太にとても憧れていて、いつか少しだけでいいのであのエリアに住んでみたいと思っている。現在刊行中のライトノベルの中でいちばん好きな主人公が咲太で、いちばん好きな女の子が麻衣さん。麻衣さんみたいになりたいし、翔子さんみたいにもなりたい。しばしばタイトルで敬遠されがちな作品だが、敬遠する方こそハマる可能性が高いので、この紹介を読んで気になったらぜひ手に取ってみてほしいなと思っている。

 

78.坂本裕二『カルテット』(ドラマ/2017)
楽家の夢を諦められない男女4人が偶然知り合い、弦楽四重奏のカルテットを結成することから始まる物語。ミステリアスな部分が多く、いくつもの展開に衝撃を受けた。いちばん影響を受けたのは「泣きながらご飯を食べたことのある人は、生きていけます」という台詞で、このドラマを見た後はずっと、悲しいことや辛いことがあって涙が止まらなくても、意地でも何か食べるようにしている。彼ら彼女らほど悲しいことも辛いことも、今の私には(過去の私にも)そこまでないのだけれど、それでもきっと泣いてしまうことはあって、そのたびに思い出しては力をもらうであろう言葉。

 

79.島本理生ナラタージュ』(小説/2005)
工藤泉には雨が降るたび思い出す記憶がある。高校時代に助けてくれた、好きだった葉山先生とふたたび会うようになった大学2年の頃の思い出。大人になった泉が大学2年の頃と、高校時代を回想する形式で語られる恋愛小説。映画化すると決まったときに気になって読んだのだけれど、すごく心囚われてしまった。泉が選んだ道も、葉山が選んだ道も、美しいと思う。小説の終わり方がとても好き。映画では違う終わり方をするのだけれど、そうなった理由も分かっていて、そちらも大好き。

 

80.恩田陸蜜蜂と遠雷』(小説/2016)
静岡で開催される芳ヶ江国際ピアノコンクール。書類選考を経て、大切なものを賭けて、あるいは胸に秘めて、そこに集まったコンテスタントたちの、運命の演奏を描く。4人の主人公がいる群像劇形式になっていて、小説としての完成度がちょっとありえないくらい高い。休憩も取らずに5時間以上続けて読んでいた覚えがある。読書中ずっと音楽が鳴っていた。クラシック音楽にはまるで詳しくないので、演奏される曲のタイトルを見てもどんな曲かなんてちっとも分からないのだけれど、それでもずっと、知らないはずの曲が頭の中で鳴っていたのだ。そして、音楽の物語なのだけれど、音楽だけの物語ではないのが素晴らしい。恩田陸ストーリーテラーとしての力に圧倒され、「恩田陸全部読む」企画が始まったのだが、作品点数が多い上にジャンルが多岐に渡っていて、なかなか企画を終えることができないでいる。

 

81.三秋縋『夢が覚めるまで』(小説/2017)
無気力だった僕が出会った謎の少女・ユキ。誰かに追われているような様子を見せる彼女をアパートに匿い、共同生活を始める僕だったが……。イラストレーターのloundraw先生の個展で販売された、三秋縋先生の中編くらいの分量の小説。経緯が経緯なので他の場所では発表しづらいかもしれないが、いつかは誰もが簡単に手に取れるようになってほしいものだ。三秋縋脚本・loundraw監督でこの作品の本編が映画化されることを、実現するその日までずっと願っている。きっと素晴らしい作品が出来上がるだろう。

 

82.野木亜紀子『アンナチュラル』(ドラマ/2018)
不自然死究明研究所、通称UDIラボ。死因不明のご遺体ばかりが運び込まれてくるその場所で、法衣解剖医の三澄ミコトは日々真摯に一体一体と向き合っていくが……。不自然な死の裏側にある真実を探し出すミステリドラマ。このときすっかり野木亜紀子の脚本に魅せられていた私は、野木先生のオリジナルドラマがとうとう始まるということで放送開始10分前から正座待機していたのだが、想像以上のおもしろさに心を撃ち抜かれてしまい、毎週1話当たり3~4回ずつ観ていた。会話のテンポ感の楽しさ、次第に高まっていくUDIラボのチーム感への憧れ、ミステリとしてのクオリティの高さ、襲い掛かる不条理にそれでも向き合っていくミコトたちの決意、主題歌のLemon。中だるみの回がなく終わり方も綺麗な、至高の1作である。

 

83.秋山瑞人イリヤの空、UFOの夏』(小説/2001~2003)
中学2年の浅羽直之は夏休み最後の夜、学校のプールに忍び込み、女の子に出会う。翌日彼女=伊里野加奈は浅羽のクラスに転校してくるのだが、伊里野には謎なところがいくつもあって……? 最終4巻まで読んだとき、こんな作品があってたまるかと思わされたのをよく覚えている。血を流さなければ気が済まないくらいだったけれど、でもそれができないこともよく分からされていた。初読から数年経っても、私はやはりこの作品がどうしようもなく好きで、そのどうしようもなさをなんとか言葉にしていくことが、これからの課題であると思っている。

 

84.三秋縋『君の話』(小説/2018)
僕には一度も会ったことのない幼馴染がいる。彼女、夏凪灯花は僕のためだけに作られた、記憶の――正確には「義憶」の中にしか存在しない女の子だ。なのに僕=天谷千尋は夏のその日、現実で夏凪灯花に出会ってしまい……? 三秋縋の現時点での最新作にして、個人的にはこのタイプの物語の最高傑作だとも感じている。物語の最後で天谷千尋は読者にある仕掛けをするのだけれど、その仕掛けは今でも私の中に息づいていて、思考のすべてを形作っている。恥ずかしいのでこれ以上詳しくは語らない。『君の話』を読んだ方にはもしかしたら分かられているかもしれないけれど、分かっても秘密にしておいてほしい。

 

85.CloverWorks『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』(アニメ/2018)
77で紹介した青春ブタ野郎シリーズのアニメ化作品である。ここまで読んできてくださった方なら勘付いているかもしれないのだが、私にはテレビアニメを観る習慣があまりなく、好きな小説やライトノベルのアニメ化でもなかなか最後まで観られないことが多かった。しかしこの『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』はほぼリアルタイムで完走できた、唯一といってもいい作品である。5巻までの内容が大事な部分を削ぎ落さずに詰め込まれており、動く麻衣さんも他の女の子たちもとてもかわいく、大好きなアニメである。劇場版の『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』ももちろん観に行ったのだが、公開されてから観に行くまでに少し日が空いてしまい、特典の鴨志田先生の書き下ろし小説をもらい逃してしまったことを今でも悔やんでいる。「特典がほしい映画はなんとしてでも初日に観に行くべし」という教訓を授けてくれた作品にもなっている。

 

86.斜線堂有紀『私が大好きな小説家を殺すまで』(小説/2018)
〈憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。だから私は、遥川悠真に死んで欲しかった〉消えた天才小説家の知られざる顔を知っているのは私、幕居梓だけ。2人の間に何があったのかを梓の視点から語っていく、謎に満ちた昏い愛の物語。『キネマ探偵カレイドミステリー』を読んでファンになった斜線堂先生が作家と読者の話を書くということで発売前からとても楽しみにしていたのだが、予想以上に心を鷲掴みにされた。梓が冒頭で「執着」と表現したそれについて、私が一家言持つようになったきっかけの作品。すなわち、「生きていて、喋りも触れもできる人間を神様にしてはいけない」。

 

87.柴村仁 由良シリーズ(小説/2009~)
夏、少女が校舎から落ちて亡くなった。自殺と処理されようとしていたが彼女と同じ美術部の生徒・由良彼方は「彼女が絵を描きかけのまま死ぬはずがない」と主張。少女の死の真相は、そして残された少年はどうするのか。まだまだ世界には私好みの青春ミステリがあるのだな、と久々に思わされ青春ミステリへの愛が深まったシリーズ。3作目『セイジャの式日』のラストシーンが非常に印象に残っており、生活していてよく思い出すことがある。2014年に4作目の『ノクチルカ笑う』が出て、新作が出るかは不明だが、希望を込めて「2009~」の表記にした。この100作の中には他にもそういった希望が含まれていることがある。

 

88.深沢仁『この夏のこともどうせ忘れる』(小説/2019)
高校生たちのひと夏を描いた短編集。この100作の中にはシリーズ短編集や連作短編集、アンソロジーはいくつか挙がっているのだけれど、完全に独立した短編集というのはこの1冊のみだった、と今気づいた。それくらい特別な物語たちなのだ。瓶のなかに閉じ込めて何度も取り出して眺めたいような「夏」を、それでも彼ら彼女らは「どうせ忘れる」ということがとにかく衝撃的で、どうすればいいか分からなくて、とりあえずここで語られた出来事を私だけはずっと覚えていようと決心した。この年の夏は「夏」が舞台の素敵な作品がたくさん刊行されて、致死量の夏を摂取していたのをふと思い出す。

 

89.新海誠『天気の子』(アニメ/2019)
高校1年生の夏、島から家出してきた帆高は1人の少女と出会う。彼女、陽菜さんは空に祈るだけであたり一帯を晴れにすることのできる「100パーセントの晴れ女」だった! あの『君の名は。』の監督の次作ということで、日本でいちばん注目されているといっても過言ではなかったアニメ映画が、なぜこんなにも私好みの作品だったのだろう、と思うことがたまにある。(たぶん)莫大な予算を注ぎ込んで作られた最高のクオリティの作品がこんなに! 私好みなんて! ありがとう世界、ありがとう新海誠、という気持ちでいっぱいである。帆高の選択もその後の展開もラストシーンもすべてが好き。去年IMAXで観たら記憶よりもはるかにおもしろかったので、機会があればぜひIMAXでも観てみてほしい。

 

90.新海誠秒速5センチメートル』(アニメ/2007)
貴樹と明里。小学校の同級生だった2人の関係性は明里が栃木に転校したことで途絶えたかに思われたが、中学1年の夏に明里から手紙が来たことで文通が始まる。冬に鹿児島に転校することが決まった貴樹は、約束して明里に会いに行こうとするが、雪で電車がストップしてしまい……? コンビニで「One more time, One more chance」のインストが流れているのを聴くたびに泣きそうになってしまうので、BGMとして軽率に「One more time, One more chance」を流すのは本当にやめてほしいと思っている。「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」の3話からなる連作短編形式になっているのだけれど、「コスモナウト」の主人公・花苗がとても好きで、幸せになってくれていたらいいなあと思っている。貴樹のように好きだった子のことを忘れられない気持ちがよく理解できるし、共感もするので(しかも2人の関係性はただの「好き同士」だけではない、もっと深いものだと描かれている)、私はこの作品がとても好きである。

 

91.tvNトッケビ』(韓国ドラマ/2016~2017)
昔から幽霊が見える女子高生・ウンタクはあるとき、自分が不老不死の守護神・トッケビを呼び出せることに気付く。トッケビは長い間自分の花嫁を探していたが、ウンタクは自分がそうであると主張し……? 基本的にコミカルなのだけれど、ところどころシリアスな展開もありおもしろい。最終話は最初から最後まで号泣していた。ウンタクが最後に取った選択と、ラストシーンがとても好き。影響を受けているというか、もしウンタクと同じ立場になったら私も同じ選択をしたいな、できる自分でありたいなとずっと思っている。ファンタジーだけれどもしかしたらそういう場面があるかもしれないから。ないとは誰にも言い切れない、よね?

 

92.アイドルマスターシャイニーカラーズ「天塵」(ゲーム内イベントシナリオ/2020)
283プロダクションの駆け出しのアイドルグループ・ノクチルは幼なじみ4人組で結成されている。生放送である事故を起こし干されてしまった彼女たちは、プロデューサーが取ってきた小さな仕事に取り組むが……? ブラウザゲームアイドルマスターシャイニーカラーズをプレイし始めてかなり初期に出会ったイベントシナリオということもあるが、すごく印象に残っている。クライマックスの海でのノクチル4人の言葉と、それを見るプロデューサーの述懐が忘れられないのだ。圧倒的な輝きを支えることも大切な仕事だけれど、よく見なければ気づくことのできないきらめきを届けることは、なかなかできることではない。難しくても、苦しくても、私は後者の働きをしていきたいと望んでいる。

 

93.杉井光『楽園ノイズ』(小説/2020~)
再生回数のために女装してネットに音楽をアップしていた僕・村瀬真琴は、高校入学早々音楽教師の華園美沙緒に正体を見抜かれてしまい、音楽の授業の手伝いをする羽目になる。そこで同じように授業の手伝いをしている冴島凛子と出会い、彼女がかつては数々のピアノコンクールで優勝を攫っていた少女だと知る。凛子の弾くピアノをもう一度聴きたい真琴は凛子にある勝負を持ちかける。まさか杉井光がもう一度青春音楽ストーリーを書くなんて思っていなくて、今でも半分くらいは夢なのではないかと思っている。真琴たちはありったけを言葉にして話し合い、それでも伝わらなかったところを音楽でぶつけようとする。読んでいて安心感があるのはそのためだろう。杉井光の過去作から思わぬ人物たちが再登場してくるのも見どころの1つ。このシリーズを読んで杉井光を一生推していこうと決意した、のだけれどそうなるとあの件について向き合わなければならず、目下のところの悩みである。

 

94.森博嗣 森ミステリィ(小説/1996~)
すべてがFになる』からの一連のシリーズのこと。S&Mシリーズ、Vシリーズ、四季シリーズ、Gシリーズ、Xシリーズ、百年シリーズ、Wシリーズ、WWシリーズ、およびシリーズ外の一部の小説のことを指す。100作と言っているのにこれだけで60冊以上あるのでずるいと言われてしまいそうだが、どこで区切ればいいか分からないため、全部で1作のカウントにした。真賀田四季という天才が想像していて、近未来が舞台のWシリーズやWWシリーズでその一端が描かれる世界には、ちょっと憧れる。この作品群を通して私は、人間とは何かという壮大な、避けては通れない問いに立ち向かうヒントをもらっている気がしている。

 

95.河野裕『昨日星を探した言い訳』(小説/2020)
舞台は全寮制の中高一貫校・制道院学園。中学2年で転入してきた緑の目の少女・茅森良子は本気で総理大臣を目指していた。まずはこの名門校で生徒会長になることが目標の茅森に、同じ図書委員だった坂口孝文は協力することになる。河野裕作品における間違いないターニングポイントである恋愛小説。扱われることの一つひとつが誠実で、真剣に読みすぎて胸が苦しくなったのを覚えている。理想の世界の実現に向けて一歩ずつ進み続ける茅森良子が血の通った人間として描かれていることがうれしかったし、このとき彼女のような人物に出会えたことは、私にとってはある種の救いだった。いくつも印象的な表現があるのだけれど、引用するには長すぎるので、ぜひ手に取ってみてほしい。どうやら今夏に文庫化が予定されているそうなので、それを機にもっとこの物語が広まってくれたらいいなと願っている。

 

96.坂本裕二『花束みたいな恋をした』(映画/2021)
明大前で終電を逃したことがきっかけで出会った大学生の麦と絹は意気投合しあっという間に恋に落ちる。なかなか就職が決まらず苦しんでいた絹を麦は助け、自分は絵を描くことで生計を立てていこうとするのだが……? いちばん印象深い場面は、書店に行ってもビジネス書ばかりを読むようになった麦を見て、絹が声を掛けるのを躊躇するところ。このシーンのせいでビジネス書コーナーに行きづらくなったではないか! 最近は少しビジネス書も読んでみようかと思っているのだけれど、ビジネス書を見るためだけには書店に行かないようにしたいと固く心に誓っている。始まり方とクライマックスと終わり方がとても好きな映画。

 

97.丸戸史明WHITE ALBUM2』(ゲーム/2010~2011)
北原春希は高校生活最後の文化祭を前にピンチを迎えていた。諸事情でバンドメンバーがいなくなってしまったからだ。春希は屋上で歌っていた校内一の美少女・小木曽雪菜と隣の席のピアノの天才・冬馬かずさをメンバーに引き入れ文化祭出場を目指すのだが……? 非常に長いノベルゲームで、集中してプレイしていたらすっかりハマってしまった。分岐があって雪菜ともかずさとも結ばれることができるのだけれど、雪菜ルートは「これぞ求めていたおもしろさ!」という感じで、かずさルートは「これぞ私が見たかったもの! 大好き!」という感じ。つまりどちらもびっくりするくらい素晴らしい仕上がりなのである。冬馬かずさが好きだからかずさルートが好きなのではなく、彼女がこういう道しか選べない女の子だと序盤から薄々感じていたからこそ、かずさのことを好きになってしまったのだろう。

 

98.八重野統摩『ナイフを胸に抱きしめて』(小説/2022)
父親が不倫の末若い女性と再婚し、母親は過労で逝去。柳川姉妹は支え合って細々と生きてきたが、あるとき小学校教師をしている姉の和奈の前に家族から父親を奪った女が現れてしまい――? テーマとなった〈復讐〉について、考え方を大きく変えられた。どう変えられたかを言ってしまえばネタバレに繋がるので詳しく説明することはできないが、去年この作品に出会えて心底よかったと思っている。未読の方で何かに、あるいは誰かに苦しめられている方は、ぜひ手に取ってみてほしい。八重野統摩先生のことは今後ずっと追いかけていきたいと思っている。

 

99.村上春樹1Q84』(小説/2009~2010)
スポーツクラブのインストラクターの青豆は、依頼されて暗殺稼業を行っていた。あるとき彼女は自らが「月が2つある世界」に迷い込んでいることに気付く。もう1人の主人公・天吾は小説家を目指している予備校の数学講師。彼はとある少女が書いた新人賞応募原稿の「書き直し」を頼まれる。2人のパートはどう重なるのか、2人は果たして会うことがあるのか? 私が『1Q84』を読んだのはつい先々月のことなのだけれど、歴代No.1の恋愛小説に認定した。振り返ってみれば私の好きな何人かのクリエイターたちはこの作品に影響されて様々なものを生み出していたのだな、と分かる。この世界で描かれたいくつものことを、私も大切にして生きていきたいし、そうできなければ生きている意味がないとすら、思っている。

 

100.宮田眞砂『夢の国から目覚めても』(小説/2021)
百合同人サークル「ゆゆゆり」の有希は、相方である由香に恋していた。けれどその想いを伝えることはできない。由香はヘテロセクシャルで、彼氏もいるからだ。2人の仲はけれど、有希が同人仲間の女の子にデートに誘われたことがきっかけで大きく変化する。「すべての女の子の気持ちが報われる世界」を目指す由香に影響されて、私も「すべての人類の気持ちが報われる世界」を作るために何かできないだろうか、とぼんやり考えるようになった。誰も男とか女とか気にしなくなったら、苦しむ人々は今より減るだろうか? 積極的に何かすることはできないかもしれないけれど、せめてずっと心に留めておきたいと思っている。現時点でいちばん、大勢の人に届いてほしい本。

 

選出する中で、年齢を重ねるにつれて作品から「影響を受ける」ということが少なくなってきていると実感した。おもしろい作品にはずっと出会い続けているからよいのだけれど、人生の岐路に立たされたときに思い出す作品にこの先100作以上巡り合う自信があるかと問われれば、首を横に振るしかない。懐古主義に陥らないように、常に気を付けて生きていきたいものだ。

 

追記3:コメントをすべて書き終えた今、上記の文章はいかにも取ってつけたような言葉だなと猛省している。その作品に触れて影響を受けたかどうかなんてずっと後になってみないと分からないもので、100作の中にここ数年で出会った作品があまり含まれていないのは当然のことなのだ。

 

私はきっとこの先の人生でも多くの作品の影響を受けるだろう。今回選んだら小説が多くなったけれど、もしかしたら漫画やゲームが加わるかもしれない。同じような企画でまったく別の作品名を挙げられる日がいつか来るのが、今はただただ楽しみである。

 

追記4:ここまで3万2千字近い文章を読んでくださった方、本当にありがとうございます! こうしてすべてを文章にするとなんだか嘘みたいだけれど、それでも誰かがこの記事を読んで気になる本が見つかったり、実際に読んでくれたりするといいなと思って書きました。また、Twitterなどでいつも見てくださっている皆様、インターネットではこれまで意図的に自分のことをあまり書いてこなかったので、今回の記事は雰囲気が違うなと思われた方もいるかもしれません。節目ということで意を決して書いてみました。私はこんなに小説や創作物と不可分なので、これからもきっと大丈夫です。これを読まれた方もどうか、永遠に大丈夫でいてください。