ささやかな終末

小説がすきです。

いつか見た夢の灯 ~木緒なち『ぼくたちのリメイク』完結記念ブログ~

木緒なち『ぼくたちのリメイク』(MF文庫J)が完結した。ライトノベルの長期シリーズものはまず、最終巻が出るだけで奇跡的だというのに、綺麗に終わったものだから、とてもうれしかった。発売日にいそいそと読みながら、『ぼくたちのリメイク』に出会った頃のことを思い返していた。ちょうど4年くらい前のことだ。ひさびさにライトノベルのシリーズものの新規開拓をしようとして、『このライトノベルがすごい!』のランキングを参考にしながら何シリーズか購入してみた。どのシリーズもかなりおもしろかったのだけれど、今でも新刊が出るたびに追っているのは、なんだかんだこのシリーズだ。

 

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『ぼくたちのリメイク』(以下『ぼくリメ』)はこんなあらすじだ。ブラック美少女ゲーム会社で働きつぶされそうになっていた28歳の橋場恭也は、気づけば10年前にタイムリープしていた。彼の手にはそのとき2通の合格通知書があった。1通は実際に通った大学のもの、もう1通は行くことを諦めた芸術大学のもの。恭也は一念発起して芸術大学への進学を選び、その結果10年後の世界で「プラチナ世代」と呼ばれるほど活躍していた3人のクリエイターと出会うことになる。恭也は社会人経験で培った調整力や不屈さを生かし、まとめ役として作品づくりに関わっていく。授業の課題の映像作品や、同人ゲーム。恭也たちの住むシェアハウスの名前に由来する「チームきたやま」が、他の大学生たちとぶつかったり競ったりしながらメンバーを増やしていく過程が、時に軽やかに、時にシリアスに、そして何よりドラマティックに描かれていく。

 

チームでものを作る話や、才能の話がすごく好きなので、ハマるのは必然だったかもしれない。しかし『ぼくリメ』にはそれ以上に私を惹きつけた点が2つある。1つは先の読めない展開、もう1つはある女の子の存在だ。

 

1つ目のストーリー展開の読めなさは、ライトノベルに多くある学園もの(大学生の話というのは珍しいが)とだいたい同じような流れで進むだろうと捉えながら読み進めていた私にかなりの衝撃を与えた。「ここでこういう展開が来ちゃうの!?」「この巻ここで終わり!?」と何度思ったか分からない。読み始めた当時はすでに6巻まで出ていたのだが、続きが気になってどんどん読み進めてしまった。あまり語ると未読の方の興を削いでしまうので紹介するのが難しいけれど、どんなにライトノベルや青春ものを読みなれた読者でも、一度は必ず「ええっ!?」と驚いてしまう展開があるのではないだろうか。

 

2つ目は河瀬川英子というヒロインについての話になる。努力家で優秀で、なんとなく通っている学生も多い芸大でしっかりと未来を見つめて動いている、がんばり屋さんな女の子。最初はツンケンしていて恭也をライバル視していた彼女が、徐々に素を見せてくれて、恭也の穴を埋めてくれるような働きをしてくれて、なんて素敵な子なのだろうと、いつの間にか好きになっていた。『ぼくリメ』の興味深かったところは、本編と並行して『ぼくたちのリメイク Ver.β』というアナザーストーリーが始まったことだ。もしも恭也が社会人になってから河瀬川英子に出会っていたら? という物語で、一時期は本編よりもおもしろいと思わされるほど好きだった。βの世界線を見て、ますます河瀬川の虜になってしまったのである。本編最終巻でも彼女の働きは大変素晴らしく、なんといっても(以下ネタバレのため自主規制)

 

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以上2点は『ぼくリメ』の魅力の一端にすぎない。王道の展開のところもとてもおもしろいし、河瀬川以外の登場人物も男女問わず誰もが生き生きと輝いている。とりわけ橋場恭也に関しては、「ここで天才クリエイターたちにそんな横暴な要求、許されるの!?」とびっくりするような行動を取ることもあるけれど、それを皆が受け入れてくれる関係性や恭也のディレクターとしての手腕の見事さに憧れ、かなり好きな主人公になっていった。10年先の未来の知識と社会人経験で無双できる、という話かと思えばすべてを記憶しているわけでもなく、大学生に戻って等身大の精神で悩み考える姿もかっこよかった。

 

いずれ才能が花開くとしても、ここにいる彼ら彼女らはまだ10代で、しょっちゅう迷ったり苦しんだりしている。その感情が丁寧に描き出され、恭也のアイデアや行動によって救われていくさまを見ていると、自分の心まで救われたような気がしたものだ。そして最終巻でも、私はこの作品が打ち出したメッセージに、勇気と希望をもらった。何度も温かい涙が頬を伝い、本のページをめくるのに支障が出たほどだ。

 

なぜ恭也はタイムリープすることになったのか。なぜタイトルは『ぼくのリメイク』ではなく『ぼくたちのリメイク』なのか。その答えがすべて、最終12巻にはあった。正直に言うとこの作品ではタイムリープの真相は取り沙汰されないのではないかと思っていたため、きちんと謎が解けて最高に満足した。ここまで綺麗に完結すると、大勢のひとに読んでほしくなる。だから私はこうして「『ぼくたちのリメイク』完結記念ブログ」を書くことにした。

 

『ぼくたちのリメイク』は誰かの「ものづくりに関わるひとになりたい」という夢を応援してくれるような、今からでも「変われるかもしれない」と思う背中を後押ししてくれるような、読めば心に熱が灯る作品だ。恭也たちの熱さが世界を巡り、挑戦者たちの行く先を1日でも長く照らしてくれることを、切に願っている。

 

完結おめでとうございます。素敵な物語をありがとうございました。恭也たちみんなも、最後まで駆け抜けてくれて本当にありがとう。どうかお元気で、末永くお幸せに。また会える日を心から楽しみにしています。

 

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