ささやかな終末

小説がすきです。

『冬期限定ボンボンショコラ事件』を読み終えて(この時代を忘れないための短い記録)

ああ、終わってしまった。夢にまで見た冬期限定。喉から手が出るほど読みたくて、何度もページを閉じてしまうくらい読みたくなかった冬の物語を、とうとう読み終えてしまった。余韻に浸りながら感想を書いていたら完結がほんとうにつらくなってきて、三時間ばかり不貞寝してしまった。素晴らしい小説だったこととは無関係に、心のどこかが受け入れたくないと叫んでいる。

 

いろいろ予想はしていた。秋はあんな風に終わったけれど、小佐内さんと小鳩くんの関係性は冬が始まる頃にはどうなっているのかな。中学時代に二人が小市民を志すきっかけになった事件は触れられるのかな。小鳩くんは大丈夫かな。小佐内さんや健吾が小鳩くんに情報を持ってくるのかな。でも受験だしな。最後に二人はどんな選択を下すのかな。今の米澤穂信が書く冬は、秋を書き上げたときの米澤穂信が想定していた冬とどれほど違うのかな。何が来ても耐えられる覚悟をしていた、とまでは言わないものの、ある程度までは考えていたのに! やはり本物の『冬期限定』の衝撃は想像よりも遥かに大きかった。それは(こんなことはいまさらわざわざ一読者が言うものでもないがあえて言おう)、米澤穂信の作家としての力量の凄まじさを示すものであるとともに、己の弱さの発露でもあったように思う。

 

どこかで終わらない気がしていた。『冬期限定ボンボンショコラ事件』の刊行予定が発表された2023年12月15日。〈小市民〉シリーズのアニメ化が発表された2024年1月12日(午後6時だったことすら覚えている)。そして冬が終わり春になってもなお、心のどこかで完結の日は、冬がくる日は一生こないと信じたがっていた。その結果がこれだ。いつかは受け止められるだろう、けれど今はまだちょっと難しい。これから何度も何度も読み返して、自分の中でこの冬の物語の形が定まるとき、私はどんな人間になっているのだろう。

 

小佐内さんと小鳩くんは高校三年生で、今の私とはだいたい七歳ほどの開きがあるのだけれど、この小説は間違いなく今・このときの私のための物語だった。もしも七年早く刊行されていればどうなっていただろう、いろいろな決断が違ったかもしれない、と少しだけ悔しくて、その仮定には夢しかないと首を振る。あのときの私が読んでも、今の私ほどには響かなかった。なんせ今よりさらに未熟なので。だからやっぱり、今・このときでよかったのだ。

 

これは完全に余談だが、『冬期限定ボンボンショコラ事件』のクライマックスで米澤穂信が小鳩くんに与えたようなことを、これから私は自分に与えなければいけない。できるかな。とてもとても心配だけれど、幸い七年多く生きてきて、いろいろなおまもりも宝物も側にあるので、なんとかなるにちがいない。時間はかかるだろうけど。一段ずつ、焦らず。

 

さて、心のどこかが受け入れたくないと叫んでいても、区切りはつけなければいけない、ということで! 米澤先生、素敵な物語をありがとうございました。小佐内さん、小鳩くん、高校生活ほんとうにお疲れさまでした。さよならではあるけれど、でもページを開けば私はいつでもあなたたちに会いに行けます。読みながら感じていたすべてを思い出すことができます。だからどうか、これからも生きて行ってください。いつか出るであろう最後の短編集が、今はとても楽しみです。

 

(2024年4月27日 菅谷理瑚)

 

 

ネタバレ込みの感想はまたそのうち。